Ractor(ラクター)は、Ruby 3.0から導入された並列処理のための仕組みだ。名前は「Ruby + Actor(アクターモデル)」に由来する。

一言でいうと、複数の処理を本当に同時実行するための箱


なぜRactorが必要なのか

RubyにはもともとThreadがあるが、CRubyでは**GVL(Global VM Lock)**の制約があるため、同じ瞬間にRubyコードを実行できるスレッドは基本1つだけになる。

つまり、スレッドは「同時に進んでいるように見える」ものの、CPUを使う重い処理ではマルチコア性能をフル活用しづらい。

Ractorはこの点を改善する。Ractorごとに独立した実行環境を持つため、CPUコアを使った真の並列実行が可能になる。


基本の使い方

r = Ractor.new do
  puts "Ractorの中だよ"
  1 + 2
end

result = r.take
puts result  # => 3

ポイントは次の3つ。

  1. Ractor.newでRactorを作る
  2. ブロック内は別Ractorで実行される
  3. takeで結果を受け取る(必要なら待機する)

Ractor間通信の2パターン

1. send / receive(プッシュ型)

r = Ractor.new do
  msg = Ractor.receive
  puts "受け取った: #{msg}"
end

r.send("こんにちは")
r.take

送信側がメッセージを渡し、受信側がRactor.receiveで受け取る。

2. yield / take(プル型)

r = Ractor.new do
  Ractor.yield "データ1"
  Ractor.yield "データ2"
  "最後のデータ"
end

puts r.take  # => "データ1"
puts r.take  # => "データ2"
puts r.take  # => "最後のデータ"

生成側がyieldし、取得側がtakeで順に取り出す。


実用イメージ:重い計算を並列化

require 'prime'

numbers = [100000007, 100000037, 100000039, 100000049]

start = Time.now
numbers.each { |n| Prime.prime?(n) }
puts "直列: #{Time.now - start}秒"

start = Time.now
ractors = numbers.map do |n|
  Ractor.new(n) { |num| Prime.prime?(num) }
end
ractors.each(&:take)
puts "並列: #{Time.now - start}秒"

CPUバウンドな処理では、Ractorで速度改善できるケースが多い。


使う前に知っておく制約

Ractorは安全性のために、データ共有を厳格に制限している。

1. 外側のローカル変数をそのまま参照できない

x = 10

r = Ractor.new do
  puts x  # エラー
end

必要な値は引数として明示的に渡す。

x = 10
r = Ractor.new(x) { |v| puts v }
r.take

2. オブジェクトには共有/移動ルールがある

共有可能オブジェクト(イミュータブルな値など)はそのまま扱えるが、通常の可変オブジェクトは受け渡し時に所有権移動が発生する場合がある。

str = "hello"
r = Ractor.new(str) { |s| s.upcase }
r.take  # => "HELLO"

puts str  # Ractor::MovedError

これは「同じオブジェクトを複数Ractorが同時更新する事故」を防ぐための設計。

3. 実験的機能として扱われる時期があった

RubyバージョンによってはRactor is experimentalの警告が出る。実運用で使う場合は、使用中バージョンのドキュメントで挙動確認が必要。


ThreadとRactorの使い分け

  • Ractor向き: CPUを使う重い計算(数値計算、画像処理、暗号系など)
  • Thread向き: I/O待ち中心の処理(HTTP通信、ファイルI/Oなど)

「何で遅いか」がCPUかI/Oかで、選択が変わる。


まとめ

Ractorは、Rubyでマルチコアを活かした並列処理を実現するための仕組みだ。制約は厳しいが、そのぶんデータ競合バグを設計レベルで防ぎやすい。

最初は、重い計算を小さく分割してRactorに投げるところから試すのがわかりやすい。


参考文献・リンク